"Pain is inevitable, suffering is optional"

 ということばがある。大変なのはどうしようもないけれど、苦しみや困難さを引き受けるのは自分次第だ。もちろん降りてもいい。

 一日は本当に短い。有限な体力と引き換えになんとか前に船を進めようとするけれど、夜も真っ暗になったとき、昨日との差分その歩幅のあまりの小ささに愕然とする瞬間は少なくない。目的がたとえ明確であったとしても、そこまでの道のりには十字路があり、T字路がある。無数の選択と失敗がある。

 目的地こそ分かっているのに、現在地との間には深い断絶がはっきりとあり、右や左に歩く以外にその断絶を埋められないのがもどかしい。どんなに小さな事柄でも、なにかの現象を明らかにすることの困難さに直面していて、まさにそれは、inevitable (逃げられない)だなと思う。

 しんどくなって、乗った船から降りたくなることがある。なんで大変な道をわざわざ選んでいるのだろうと疑問に思ってしまうことがある。そういうとき、自身を駆動する始原的な動機をときどき思い起こしてみるといいのかもしれない。むろん、この船から今すぐに降りてもよい。いつまでもoptionalだ。

 翻って、彼岸まで渡りきったものだけが味わえる特別な幸福感や充実感があるのだろうと想像する。それがとても魅力的だと輝いて見えるまでに、とにかく向こう岸を目指さなければ、と改めて思い直したところだった。

 昼すぎ、研究室近くの神社へお参りに行ったとき、強い雨に見舞われたことが象徴的な出来事のように思えた。明日からもまた、小さな差分を積み重ねていくことになると思う。それが恐らく唯一の方法なのだろう。