新刊の途中に

 この類いの物語を必要とする人がいるのだと強く感じている。読みながらもう少し自分のことについてゆっくり考えたいという気持ちにさせてくれる。

 個人に収支したこじんまりとした物語において、多くの人が心を動かされる(共感や批判がある)という普遍性を獲得しているは本当に偉業だなと思う。都会的な小洒落た小説とかそういうのは問題とすらなり得ない気もする。

「十六年考え続けてきたよ。でもいまだに見当がつかない」

 アオは困惑したように目を細め、鼻の頭を指でこすった。それが何かを深く考える時の彼の癖だった。「あの時おれがそう言うと、おまえは『わかった』と言ってそのまま電話を切った。とくに抗議もしなかった。話を深く追求もしなかった。だからおれとしては当然ながら、おまえはそれについて、自分でも何か思い当たるところがあるんだろうと解釈した」

 「本当に深く心が傷ついたときには、言葉なんて出てこないものだよ」とつくるは言った。

 アオはそれについて何も言わず、スコーンをちぎって、その塊を鳩のいる方に投げた。

 まだ半分しか読んでませんが。

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

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