夕飯のはなしをしようと思う

 というわけで、帰りの電車のなかでパスタソースを何で作ろうかおれはずっとなやんでいた。トマトベースにするというのは既に決まっていたが、ここは一つ手間と暇をかけてトマトクリームにすべきではないのか、時間をかけた料理に生まれる美味しさは格別な体験となるのではないかと考えた。しかしおれは腹がとても減っていた。たっぷりのオリーブオイルでこんがり色づくガーリックを想像した。ぐつぐつとフライパンの中で煮えるホールトマトのことを考えた。

 冷蔵庫には朝食用のハムとチーズ、採りたて感をまとったほうれん草があった。元気をつけようとニンニクを多めに刻み、オリーブオイルで炒め始めると今日という一日はこの香りのためにあったのだと思えてきた。玉ねぎ、ほうれん草とハムを炒めた。残りわずかになったハーブソルトの瓶底は殆どハーブばかりでハーブ(ソルト入り)であった。トマトを合わせたあと、スライスチーズを溶かしたら当初想定していたトマトクリーム風なソースが出来上がった。まず見た目に感動していた。とてもよい眺めであった。

 おれは一口食べるや否や大きな幸福感に見舞われた。ほうれん草とハムのトマトクリームパスタは強めに効いたニンニクとハーブが合間ってかつてないうまさを呈していた。おれは感動しながら茹ですぎた二杯目のパスタを平らげていた。これは平日のある夕飯の記録である。

 

(ベッドで寝転がりながらの投稿)